monta1
私は秒刊サンデー見習いライター、T。今回は先日、日暮里で遭遇した、珍事件についてみなさんにご紹介したいと思う。 とある記事の取材を終えた私は、日暮里駅南口から家に帰ろうと思った時、 ふと駅への道傍に「世界の純潔モデル カド イツキ 来日記念サイン会実施中」と書かれた胡散臭すぎるブース小さなブースがあるのが目に入った。

monta2

占いか路上アーティストかと思い、あまり気にせず横目で見ていたらこんな文字が目に入ってきた。

monta3


「世界の純潔モデル カド イツキ 来日記念サイン会実施中」

What? 純潔ってどういう意味? そしてあのきったねえブースは一体⋯⋯?
しかもその怪しさゆえか、誰一人近づこうとしていないのが見て取れる。

monta4

しかしわけのわからないものと危険そうななものに俄然ひかれてしまう悲しき記者魂に引き寄せられ、さっそく"カド イツキ"氏に接触を試みることにした。

monta5

「こんにちは、『秒刊サンデー』の見習いライターをやっておりますTと申します」
「ん?メディアのヒト?事前にアポはとってる?」
「いえ、とってないっすけど⋯⋯入れた方がよかったですかね?」
「⋯⋯⋯まあいいや。とりあえず、名刺」
「あ、スイマセン、改めまして、こういうものです」

「それで?今日は取材に来たの?」
「あ、はい。ちょっとだけ⋯⋯。というかほかのメディアさん来るんですか?」
「いや? でもVORGUEが来そうなんだけど、来てないね」
「アポはとったんですか?」
「いや?」
「え?」
「取ってないよ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」



「⋯⋯⋯⋯ところでその⋯⋯純潔っていうのはどういう意味ですか?」
「文字通りの意味だ」
彼は私を見ずに、通りを見ながら横顔でそう答えた。

「もしかしてあなたはなにか血統主義的な⋯⋯あるいはそういった保守的な⋯⋯」
と言いかけたところで彼は手で私の口を遮った。「それは違う」

彼は曇りなきなき眼で私を見つめ、こう言った。
「彼女というものがいたことがない、ということだ」

「え”っ??!」

monta6

そこまで言うと彼は突然アンニュイな表情となり、通り過ぎていく電車の方に視線を送った。

「ないことはないが、それは、金とサービスのやり取りがあっただけのこと。私は心身を焦がすようなロマンスに出会っていないが、信じている。私の魂と肢体を焦がす情熱が、私の考えすぎてしまう脳内回路を焼き切るほどの恋が訪れることを。私はそれに出会えて初めて、純潔を失う痛みを知るのだよ」
「な⋯⋯なるほど⋯⋯」

monta7

「ところで、なんで日暮里なんですか?」
「私と同じく、日本には世界を視野に入れた奴らがいる。彼らは飛行機に乗り、世界を渡り歩き、己の価値を高めている。国際線といえば、まあ成田を想像するはずだ。そして、国際線の玄関口は何処だ?」「⋯⋯⋯⋯スカイライナーのある日暮里?」
「つまり、そういうことだ」

いや、だったら普通に人通りが多い上野とかでやればいいのに、とかせめて
空港でやったらいいのに⋯⋯と言いかけたのだが、
間違いなく追い出されるであろう彼を想像してやめた。もしかしたら、以前にやっている可能性も否定できないのだから。

「あのう、ところでモデルとしては何かのコレクションに出られたりするんですか?
「いや?」
「えっ??」
「えっ???」


流れる沈黙。


「私は世界のスーパーモデルでありそれ以上でも以下でもない。そのほかには何もいらない」「⋯⋯???」
「だが、ファンサービスは好きだ。私の力の源はファンだ。だからここでやっている」
「⋯⋯⋯⋯はあ⋯⋯」

monta8

「⋯⋯⋯⋯え?? じゃあ何かのCMとか雑誌に出たことは?」

「無い!」

monta9

「えっ!?」
「えっ!??」


流れる沈黙。


「それじゃモデルも未経験ってことじゃないですか?! っていうかそもそも本当にモデルなんですか?!そもそもファンだって……」

そういうと彼は、ぞんざいな態度で1枚の紙を投げつけてきた。
そこには、「螢▲潺謄ープロモーション 専属モデル」と書いてあった。

monta10

「君にはわからないかもしれないが、大事なのは経験ではない。
ファインダーを向けられたとき、いかに自分を見せるか。
あるいは、商品と私がどの瞬間、どう映ればよいのか。
それを判断できるならばいいだけだ。
できたものは勝ち、できないものは負ける。全ての瞬間、私は試される。
そんな弱肉強食の世界に生きているのがスーパーモデルなんだ」 

 「⋯⋯⋯⋯⋯は、はあ⋯⋯」


つまり、彼は二重の意味で“経験を持たない”文字通り“純潔”のモデルだった……。


もう嫌になってきた。早く帰りたい。
疲れがどっと私を襲ったが、これも一つの記事になると思い、
物的証拠を残すべく、仕方なくサインを頼んでみることにした。

monta11

「じゃあその、サインってもらえますかね?」
「君はメディアの人間だろう?しかも君の口ぶりを見ると私のファンではなさそうだ」
「うっ!」(めんどくさっ! 大胆なだけの奴だと思ったらかなり繊細じゃねえか!)

「い、いえ、姪っ子が大ファンでして⋯⋯」
「そうか、名前は?」
「あ⋯⋯のぶ代です」
「のぶ代? いい名前だな。なんでも願いをかなえてくれそうだ」

そういいながら、彼はサインをかき始めた。

monta12

monta13

お名前書いちゃったよ!普通だよ!書類かよ!

「⋯⋯あ、あのこれサインですか?」
「サイン以外の何物でもないだろう。」
「あ、え、もっとこうサインってサイン感?みたいなのありません?」

「だったら最初っからそう言ってくれ」そういいながら、彼はもう1枚書き始めた。

monta14

monta15

普通にかけんじゃねえか!ってレイアウトどうなってんだ!
何に遠慮してこの位置だ!

「あの⋯⋯中央にこう、どーんといただきたいんですが⋯⋯」
「注文が多いな、君は⋯⋯」
そういいながら、彼は再び書き始めた。

monta16

「コックさんじゃねーか! サインでもなんでもねーだろ! そしてなんでモデル体型なんだよ!」
「以前から彼の体系を2等身に書きたがる輩が多くてね。
人気者は美しいスタイルが必要だ。そう思わないか?」
「気持ち悪ぃだけだろうが!」

そうこうしているうちに我々のやり取りを見た駅員さんがこちらを胡乱げな目で見ていることに気が付いた。


「社会権力の犬め⋯⋯! ちょっと待っていろ、おれが話をつけてやる」
そういうが早いか、彼はパッと立ち上がり、そちらに向かって行ってしまった。

monta17

彼はしばらく話していたが、どうやら駅員さんは彼を追い出したいらしく、それに抵抗を試みているようだった。


が、しかし交渉は決裂した模様⋯⋯!


すると突然、彼は全速力で戻ってきて、恐るべき速度でブースをたたみ始めた。

monta18

そして、駆けだした彼の逃げ足は素早く、美しかった。

monta20
monta21
monta22


もうなんだか、何もかもがどうでも良くなった私を置いて、
そして彼は日暮里の奥深くへと何かに追われるように去っていった。


「何がしたいのかさっぱりわからない人だったな⋯⋯」
あとに残された彼の名刺には、彼のホームページらしきURLが載っており、思わず覗いてしまった。

monta23

http://30dtm.hatenablog.com/

⋯⋯⋯⋯⋯⋯なるほど⋯⋯見なければよかった⋯⋯。
後悔先に立たず。そんな言葉が頭に去来して消えた。

季節の変わり目は変なものがときおり出現するようですが、
皆さんも体調にくれぐれもお気を付けください⋯⋯!

(秒刊サンデー:見習いライターT)